政治コラムの楽しみ

 このコラムは、日本の政治の動きを、スナップショットのようにとらえようと、二年半前から本サイト上に連載を始めたものです。
 少なくとも週一本と心がけていますが、現実には、束縛のないインターネットという気楽さから、政治の動きの緩急を反映して、時期によってかなりばらつきの多い出稿となっています。あしからずご了承ください。
 私は10年ほど前に出版した「民主主義は究極の制度か」(河出書房新社)のなかで、「政治とは何か」という問題を理論的に追及しました。これを原論とするならば、このコラムは各論とでもいうべきものです。文章としてのおもしろさ、わかりやすさを追求する一方で、政治の本質に触れるような題材を選んできたつもりです。
 去年の暮れ、小泉劇場の終幕にともなって、最初の59回分を本にまとめ、出版したのに続いて、(政治コラム「立ち上がったレッサーパンダ」)、今月、安倍政権の誕生から参議院選挙での歴史的大敗まで、さらに51回分をまとめ、出版しました(歴史の終わりの終わり 安倍政権の十ヶ月)。今後も随時、本にしていくつもりなので、よろしくお願いします。

 このコラムを楽しみながらよむことで、生きた政治の一端にでも触れていただけるならば、筆者としては望外の幸せです。

       渡辺勝一

国会の当面の課題 ガソリン値下げ論争

 原油高が家計を直撃している。10年ほど前は、ガソリンリッターあたり80円台だったのが、今では約150円と倍近くになっている。生活第一を掲げる民主党は、三月末に期限が切れる、ガソリン税を含む道路特定財源の暫定税率を延長する法案に反対する方針をうちだした。

 この暫定税率の延長法案は、他の平成20年度予算関連法案とともに、今日閣議決定され衆議院に提出された。どんなに審議を急いでも、可決され参議院に送られるのは、来月上旬の見通し。さらに参議院でも、多数を占める民主党等の野党が、最長60日間、憲法の規定によって採決を先延ばしすることができ、その場合、成立は4月にずれ込み、一時的にせよ、ガソリン値下げが実現する。ガソリンでリッターあたり25円、軽油では17円下がることになる。

1、道路特定財源とは何か

 そもそも、道路整備特別会計の中の道路特定財源は、▼ガソリン税などの国税と▼軽油引取税などの地方税からなり、総額5兆4000億円と、一般会計の82兆円と比べても、その7%という巨大財源。とりわけ、このうちの半分を占めるガソリン税は、昭和29年、田中角栄が議院立法で創設して以来、日本の津々浦々に道路を敷くためだけに使われてきた。まさに自民党とともに歩んできた財源といえる。

 さらに、この道路特定財源は、石油ショック以来30年あまり、石油ガス税を除いて、いずれもそれまでの倍近い「暫定」税率が適用され続け、延長延長で、今日に至っている。

2、改革の挫折

 しかしバブル経済の崩壊以後、長引く不況と財政悪化の中で、道路整備特別会計を含む様々な特別会計に対して、「実態が見えにくい、政治家や官僚の無駄遣いの温床となっている」といった批判が強まるなか、小泉・安倍政権は、道路公団の民営化や高速道路計画の縮小をすすめるとともに、道路特定財源を、使い道が特定されない一般財源に変える方針をうちだし調整を進めてきた。

 ところが、去年夏の参議院選挙の大敗によって、自民党内での風向きが変わり、福田内閣に至って、去年の暮れ、これらの財源を特定財源のまま維持し、暫定税率も今後10年間もの長きにわたって維持することを政府与党で合意。今日の閣議決定に至った。まさに、自民党は、田中角栄の時代への逆戻りした観がある。

3、対決

 これに噛み付いたのが、小沢一郎党首率いる民主党。参議院での多数を頼みに、断固、暫定税率延長のための法案の成立を阻止すると宣言。民主党の若手は、近づく総選挙を意識し、「ガソリン値下げ隊」なる幟やチラシを作って街頭に繰り出し、キャンペーンを始めた。

 慌てた自民党は、「もし暫定税率の延長が認められない場合、道路特定財源には、国税で1兆7000億円、地方税で9000億円もの大きな穴があき、必要な道路が作れなくなる」と、「反キャンペーン」に乗り出した。

 

4、対立の構図)

 まさに2大政党全面対決の様相であるが、対立の構図は単純ではない。というもの、この問題では、本質的に異なる、二つの論点が交錯しているからである。一つは国民生活に関わる「減税か、税率維持か」という論点であり、もう一つが国家財政の在り方に関わる「一般財源か、特定財源か」という論点である。

減税(小さな政府)

税率維持(大きな政府)

一般財源(地方分権)

民主党(財政再建派)

     ○

民主党(公共事業派)

     ×

特定財源(中央集権)

自民党(財政再建派)

     ×

自民党(公共事業派)

     ○

 上の図のように、自民党と民主党のそれぞれの内部には、本来、財政再建派と公共事業派が存在しているものの、現在のところ自民党では公共事業派つまり道路族の意見が勝っているのに対して、民主党では財政再建派の意見が勝っているため、両党の全面対決の様相になっている。しかし、今後、民主党内の公共事業派や自民党内の財政再建派が声を上げはじめると、両党入り乱れての乱戦になるおそれもある。

 実際、民主党内では、延長に賛成する署名にすでに30人前後の国会議員が名を連ねているといわれ、また自民党内でも、強行に延長を主張する道路族議員とそれ以外の議員、また公明党との温度差は大きい。

5、民主党の試練

 特に民主党を悩ませているのが、この問題において、地方自治体の首長がそろって自民党に味方をしていること。多くの民主党議員が彼らに働きかけられ、腰砕けになっている。同じ地域の有権者の支援で当選している各首長に「もう民主党は応援しない」といわれると、ついつい気弱になるのはわからないでもない。しかし、よく考えてみれば、これは賢明な対応とはいえない。

 そもそも自治体首長にとって、道路予算とは、自らの支持者への「報償」のようなものであり、減税によってそれを召し上げられるのは死活問題、反対するのは当然である。しかし民主党の議員たちが、ここでよく考えなければならないのは、減税によって、首長たちのところにいかなくなる分は、ガソリン高に悲鳴を上げている有権者のふところに直接とどく、ということだ。

 実際、こうした自治体首長の「総スカン」にもかかわらず、マスコミの世論調査では常に、民主党の今回の方針に三分の二、ときには四分の三もの人たちが賛成している。従って、民主党の議員は、自らの選挙区の有権者のうち、▼ガソリン減税を批判する自治体首長の意見に従って民主党への投票を拒否する人が多いか、それとも、▼自らのふところに直接「現金」を届けてくれた民主党に投票してくれる人が多いか、冷静に考えなければならない。

 しかも、今回の減税は、しばしば各政党が選挙の前に人気取りのために公約する減税と比べて、「無駄な道路や硬直化した特別会計への反対」といった大義名分がある。政権を目指す民主党にとっては、まさに勝負どころなのである。

(2008.01.23)

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